雪よりも密やかに舞う花ビラが、 ひたと、地面を覆ってゆく。 なぜか背筋がゾクゾクする程、 妖艶な状景じゃないか。 温かい風がサッと吹いて、女が現れたら、 それはきっと桜の精だ。 もし誘われでもしたら気を付けなければ。 彼女は淫蕩で、 呆れるばかりに気紛れなのだから・・・・・・。 (c) つげ忠男
「愛がなければ写真は撮れない。やさしさだけでも写真は撮れない」
うらまごのほうにだけ書いておくのはもったいないのでこっちにも書いとこう。そうなんだよなぁ、この名文句が出てくるところでもお邪魔虫がやってきて、ほんとくっだらないこと言うので「あっち行け!」と言うてやったのだ。浸りたければカプセルの中にでも入って本をよむべきなんでしょね。
石内都の『連夜の街』というのは「歴史から降ろされた街がある。地図に赤い線でしるしを付けられた街」を、「女だから呼ばれたのだ。磁場としての赤線の街にカメラを持つ私はいやおうなく吸い寄せられ、強い力に身をまかせ」て撮った写真集。 今年の3/23にボクも『連夜の街』のなかで石内都が写した同じ建物、オブジェに対してカメラを向けた。その差ははっきりしている。ボクだって、石内都と同じように、歴史的に赤線がどうであったか、そんなことには興味はない。それは石内都が「磁場」と表現するように、ボクにも強い力が働いて引き寄せられていく。が、男だから呼ばれはしなかった。呼ぶのは、遣り手婆の「兄ちゃん、エエ子おまっせ」という声だけ。 彼女の名古屋の中村遊廓でのお袖さんとの出会いのくだりはほんとせつなかった。「連夜の街に史実はいらない。」という彼女は、その「お袖さんから何一つ遊廓春福楼の話を聞かなかった。」という。