わかっていても、がくっとくるのは、止まったエスカレーターに足を踏み入れたとき。止まったエスカレーターは、それはもうまったく階段となんら変わらないものとしか思えないはずなのに、あの金属の上に体をあずけた途端、無意識的に体だけが前へ追従しようという記憶だけが残っている。その結果、体の重心がずれて... と、理屈っぽくいうとこうなって、話しとしてはなんもおもしろくないんだよね。それを文学的に捉えてみると、周囲の状況に錯覚を起こして、自分があらぬ方向に進みかけてひやっとすることってある、と、ほら、思い当たることあるやろ。そして、きょうも止まったエスカレーターを用心深く歩いて下りたのだった。