「ねぇ、愛してると言ってよ」「愛してる」「ねぇ、わたしのこと好き?」「好き」「えっちするだけ」「ちがうよ」「川島クンって変だと思わない」「うん、そういえば変だな」「結婚しようって言う人がいるんだよ」「そうなんだ」「どんな人か気にならない」「気になると言えば気になるけど」「わたしね」「うん」「スピッツの新しい曲って何だったっけ」「正夢?」「そうそう。正夢ね、あたしね、きのう怖い夢、見ちゃって」「ふぅーん」「追いかけられるのね」「追いかけられるんだ」「そうなの」「うん」「今度さ、日曜にね」「次の日曜って5日だった?」「うん、確か5日だったと思う」「うん」「その次が12日だよね」「うん」「クリスマス、もうすぐだね」「どこか行くの?」「行かない、どこへも。またスキーに行っちゃうの」「うん」「そうなんだ」「うん」「おみやげ買ってきてね」「おみやげは笑顔でいいの、お父さん」「なに、それ?」「あ、うん」
何の約束があったわけでもないのに、何もしゃべらくてもいいような関係ができてしまった。気まずい沈黙の時間が過ぎる相手と、心地よい沈黙の時間を楽しめる相手、話すことはどちらも愚につかないようなことなのに、そんな差はどこからできてしまったんだろう。ふっと思った。いくらことばを費やしたところで愛など出てこないところには出てこない。
「黙ってないで何とか言ったらどうなのよ」