Pと初めてまともに話をしたときに、Pがボクに聞いてきたのは「10年先にどうなってるか考えたことある?」だった。ボクは「ない。考えたってわからんし、どうなるかわかったもんちゃうから考える気ぃなんかせえへんやろ」と答えた。
猫に未来がないとすれば、猫にあるのは過去ばかりで、悪く言えば執念深い、遺恨を抱えて生きているわけだ。ボクが最初に遊んだ猫はGの家にいた猫で、Gのところに遊びに行くとどういうわけか、ボクにすぐすり寄ってきた。たぶん雌猫だったにちがいない。あるとき猫の目の前に指を突きだしてやると、その指にじゃれついてきたので、そのうち指をトンボにやるように回し始めた。するとボクの指先をずっと目で追いかけて、そのうちころんと寝転がってしまって、仰向けになってもまだ指先を追いかけている。完全に目が回ってしまって、そのあとふらふらになってまっすぐ歩けない状態になってしまった。それからGの家にいっても、その猫はボクに寄りつかなくなり、逆にボクを見ると逃げ出すようになってしまった。恨まれてたんだ。
『猫に未来はない』には長新太が猫の挿絵を描いていて、ボクは大学時代、その絵を刺繍した枕カバーで寝ていた。