「フサさんを見たときから、俺も、色の白い手じゃねと思たんじゃ」 男がそう言ったのではなくフサが眼にしたその川と森がフサの耳そばで物を言ったようで、男の熱い手がフサの手をつかみ、草の葉の手ざわりを確かめるように男の石のように硬い指が掌をこするのを感じる度に、呼吸がひとつずつ苦しく狭まってくる。
フサの胸元をはだけにかかった男の手が服の上からあたる度に、硬くなった乳首を男に知られてしまうようで羞かしかったし、男の荒い息が耳にあたるのが苦しくて眼に涙さえあふれてしまうのだった。はだけられた胸に手がさしのべられ、乳房が男の熱い手の中にすっぽりつつまれるので息が出来ず、フサは抗いでもするように濃い息をたて、男の胸に救けてくれと言うように顔をよせて、坐ったままでいる事が出来ず崩れた。 男がフサの体を支えて唇を吸いながら畳に横たえた。 長い間、そんな硬い体に、よりどころない風に吹かれてしまうようなフサを押えつけてしっかりと力をこめて抱きとめてほしいと思っていたような気がし、なにもかも見せてやるというように素裸になった男を見つめた。男はその体そのものが業苦だというように「ほれ」と背中の刺青を見せ、昏い眼のままフサの体を抱き起こすようにしてのしかかる。 男の体は火のように熱く、男の手がフサの足を起こし、フサの唇いっぱいに差し込まれる舌のように男が入って来ただけで体が急激にほてり、ちりちりと火を噴き出し、フサは男の背につめを立てた。息が詰まり、声をあげる事も出来ず、男が腹の筋肉をこすりつけるようにゆっくり動きはじめるのをやめてほしいと思いながら、体中が一気に裂けてしまう。男の背にたてたつめに力をこめた。 男は力が抜けてしまったそのフサの顔を見て笑みを浮かべ、それからまた舌をフサに吸えというように唇をこすりつける。男が動く度にフサは声を荒げた。男の呼吸の音に誘われるように、フサの体の中にいまもう一人、男に合わせて身を動かしている柔らかい色の白い女が息づきはじめている気になりながら、男にきかせるように声をたてた。 男は果てる事がないように体そのものが苦しいようにフサを愛撫した。 長い事、素裸のまま抱き合っていたのは自分にもその男への恋慕があったからだと、男がまだ裸のまま板戸をあけて「食い物を持って来てくれ」と頼んでからフサは思った。十五の齢で勝一郎を知ってから、勝一郎以外の男を体に受け入れるとは思いもつかなかったので、刺青の背中に汗をかき素裸のままかまわず酒を飲みはじめた男を、出会ったときから好きだったのだと思い込んだ。