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■2003/02/15 Sat■  きのうはバレンタインデー [長年日記]

 朝早く、いつもの時間にテレビが爆音を発している。隣で寝ているBに「起きろ」と揺すってテレビの音を小さくさせて、そのまままた寝る。
 つぎに目覚めれば11時過ぎ。いつの間にBが出ていったか、知らない。きのうの晩に、「あしたまた朝起こしてね」「あした、やすみ」とそのままジーパンはいたままでばたっと寝てしまった。そう、休みの日はうれしい。ゆっくり本を読みながらコーヒー飲む。とくにきょうはバレンタインデーにもらった手作りのクッキーやケーキをぼそぼそつまみながら。
 なんでもジャニーズ事務所とかには大量にバレンタインのチョコレートが送られてくるらしい。事務所の人間だけでは処理しきれない量らしくて、それでもめぼしい高級なのはきっちり確保するんだろうけど、ほとんどは施設などに送られてしまうという。ところが手作りのクッキーなどは、何をやかしてるかわからない、つまりでき上がったクッキーなど一度舐めたり、生地に唾液をまぜたりもしてるらしく、手作りのものはすべて棄てさられる。憐れ、乙女たちよ。ボクはちゃんと食べたげるからネ。来年もいっそう腕を磨いて美味しいのちょうだいよ(笑)
 唾液を混ぜるで思いだしたけど、山田詠美の『蝶々の纏足』だったか、アイスクリームに唾液を垂らしてぐちゅぐちゅと混ぜたのを「食べなさい」とさしだす話、あれはよかったなぁ。唾液というのはエロいのだよ。同じものであっても涎になると滑稽だけれど、とにかく唾液はエロい。正常位で女の子に大きく口を開かせて男が唾液を垂らす、そういうAVがあったけれど、その監督さんよくわかってらっしゃる。ボクもわざと舌で唾液を送り込むようにキスしてるときってありますです、ハイ。
 さて、やっと話が元に戻って、コーヒー飲みながら、きのう着いた荒木経惟の『センチメンタルな旅・冬の旅』をながめる。以前に図書館で借りてこれはきっと持っていたいと思った。自分のものにしてしみじみ見る。
 荒木の新婚旅行のときの写真をそのまま自家出版した『センチメンタルな旅』? これなんて高くて手に入らないヨ ? 、それに陽子さんが子宮肉腫で亡くなる前後の『冬の旅』をくっつけて一冊にしたのがこの『センチメンタルな旅・冬の旅』
もう我慢できません。私が慢性ゲリバラ中耳炎だからではありません。たまたまファッション写真が氾濫しているのにすぎないのですが、こうでてくる顔、でてくる裸、でてくる私生活、でてくる風景が嘘っぱちじゃ、我慢できません。
 と、扉に下手っくそな荒木自身の手で書かれた一文が。この一文は『センチメンタルな旅』のときのだけれど、それから30年ほど経っても嘘っぱちばかり、むしろ嘘っぱちが大手振って横行してる。さすがにセンシティブな荒木経惟ならずとも、ボクでさえ我慢できない。
 この『センチメンタルな旅・冬の旅』をあらてめて見ていると、きゅんきゅん伝わってくる。一枚、一枚を見てると、何、これ? プロの写真家が撮った写真なの?と思えるかもしれないけれど。ちょちょっと涙がうるうるしてしまうヨ。
 例えば、「病院への近道の階段をこぶしの花を抱きかかえてのぼった。」という写真。陽子さんが危篤状態になったと知らせを受けて病院に向かうときの一枚だけれど、ふつうそういう火急のときに暢気に写真を撮ってる場合でもなかろうとも思える。だけど、だけどね、そういうとき何かことばにありえないまでも表現したいという衝動が沸き上がってくる。それがたまたま荒木経惟が写真家だったから写真という形で残しておきたい、残さずにはいられない、これってむしろ人間の正常な行動なんだと思う。

 にゃー様と萬志郎の結婚パーティーの案内状が届いてた。バレンタインデーに合わせて送りつけてくるなんて奴ららしい。コーヒーを飲みながら「ご出席」の「ご」の字を消した。

 


荒木経惟
『冬の旅』より

 


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