夜になってぼそぼそと雨が降り出した。ここしばらく晴天続きで、昼間はまるで真夏のよう。背中が太陽でじりじりと灼けつくよう。 夏の昼間の各駅停車の電車に一種何とも言いがたいものをおぼえる。車内は閑散としていて、ぽつぽつ乗っている乗客はみな一様に黙りこくっているのが目に浮かぶ。それは何度か目にした光景でもあり、自分もそうした乗客の一人であった。急行電車や朝夕の混みあった電車にはない時間の淀みのようなものが感じられる。それはちょうど夏の包み込むようなかったるい空気にも似ている。その空気をまるごと電車が運んでいると考えてもいい。誰も急がない。目の前に来た電車にただ乗り込んだだけ。電車がどこへ自分を運んでいくのかさえ気にはしていない。2,3分おきに開くドアから流れ込んで来る熱い空気に、はっと自分の目的の場所を思いだしたかのように人は降りる。 夕方になると海からの風が潮の香りを運んでくる。それはボクをまた別の世界にひきこんでいく香りなのだった。 あした台風が近づいてくるという。その後ろに梅雨をひきつれて