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■2004/12/03 Fri■  yesかnoかの状況 [長年日記]

 というわけで、『ねじまき鳥クロニクル』を読み始めてるんだが、例えば
十時前に雨が降りはじめた。たいした雨ではない。降っているのかいないのかよくわからない程度のかすかな雨だ。でも目を凝らして見ると、たしかに雨が降っていることがわかる。世界には雨が降っている状況と、雨が降っていない状況があり、その状況にはどこかで境界線が引かれなくてはならないのだ。僕はしばらくのあいだ、縁側に腰を下ろして、そのどこかにあるはずの境界線をじっと睨んでいた。
 たぶん、これはあとから、こっち側とあっち側の境界線というような意味をもつのかもしれないけれど(まだ第5章までしか読んでない)、これを読みながら、雨の降ってるところと降ってないところの境目というのは小さいころにすごく気になったことを思い出した。その境目はきっちりと線を引けるようなものでなく、かなり曖昧としているということに大きくなって気がついた。つまり、「降っているのかいないのかよくわからない程度のかすかな雨」の降るところが、線ではなく、帯のように連なっている。雨の降りはじめというのはまさにそのような帯が自分のところに動いてきている。
 そのことは誰もが体験しているのに、それが境目であるとほとんど誰もが思っていない。みんなもっと明確な境目、雨の激しさが連続的に変化する境界帯じゃなく、降っている降っていないの不連続な境界線を見たがる。そのようなかなり(激しさの変化が)不連続な境界線が存在しないこともないけれど、それとて変化があまりに急激なだけだ。そうすると、境界線などではなくて、境界帯でしかない。その帯の中での変化が急激であるか、緩慢かの差はあるにせよ。
 こう言うとまた、どこまでが帯なんだという人もいるんだろうな。物理の話にすると、雨粒が落下するときにはじめは重力だけでgの加速度で落下するが、雨粒の落下速度に比例して空気抵抗を受け、加速度は小さくなって、やがて一定速度(終端速度)で落下する。その現象でいつ終端速度になるのかを知りたがるのと同じようにナンセンスなんだよ。
 雨に限ったことでなく、さまざまな状況に人間は境界線を引きたがる。たとえば生死の境界線。脈拍で判断するのか、脳波で判断するとか。が、死に行く人は生から死への境界帯のなかにあるにすぎないんじゃないか。何をもって死と判定するか、それは何をもって雨が降っていると判断するのかと同じじゃないのか。

 そんなことを考えながら読んでいると、なかなか読み進まない。と、同時に作家ってのは大変だなぁと思う。日常的に感じたりしたことを膨らませて作品の中にとり込んでくるわけだから、そんなものはまめにメモでもしておかないと、さっさと忘却の彼方に追いやられてしまう。もっともそうして固定しようとすると「雨が降っている状況」なんてことばに変質してしまうんだろうな。そんな「雨が降っている状況」ということばにはとても違和感を感じてしまうのだった。




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