十時前に雨が降りはじめた。たいした雨ではない。降っているのかいないのかよくわからない程度のかすかな雨だ。でも目を凝らして見ると、たしかに雨が降っていることがわかる。世界には雨が降っている状況と、雨が降っていない状況があり、その状況にはどこかで境界線が引かれなくてはならないのだ。僕はしばらくのあいだ、縁側に腰を下ろして、そのどこかにあるはずの境界線をじっと睨んでいた。
そんなことを考えながら読んでいると、なかなか読み進まない。と、同時に作家ってのは大変だなぁと思う。日常的に感じたりしたことを膨らませて作品の中にとり込んでくるわけだから、そんなものはまめにメモでもしておかないと、さっさと忘却の彼方に追いやられてしまう。もっともそうして固定しようとすると「雨が降っている状況」なんてことばに変質してしまうんだろうな。そんな「雨が降っている状況」ということばにはとても違和感を感じてしまうのだった。