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■2004/11/28 Sun■  会話のない時間が心地よかったりして [長年日記]

 夜に真っ暗ないなか道を走りながら、となりにいる女としばし会話が途切れる。寝てしまったのかなと思っていると、
「なかないい沈黙だね」
とふっとまたしゃべり始める。
 かつて沈黙であることが怖くて、必死に何かを語ろうとことばを探していたことがある。何かを語りかけなければこの関係は壊れてしまいそうでどうでもいいようなことばかりをしゃべり続けていた。

「ねぇ、愛してると言ってよ」「愛してる」「ねぇ、わたしのこと好き?」「好き」「えっちするだけ」「ちがうよ」「川島クンって変だと思わない」「うん、そういえば変だな」「結婚しようって言う人がいるんだよ」「そうなんだ」「どんな人か気にならない」「気になると言えば気になるけど」「わたしね」「うん」「スピッツの新しい曲って何だったっけ」「正夢?」「そうそう。正夢ね、あたしね、きのう怖い夢、見ちゃって」「ふぅーん」「追いかけられるのね」「追いかけられるんだ」「そうなの」「うん」「今度さ、日曜にね」「次の日曜って5日だった?」「うん、確か5日だったと思う」「うん」「その次が12日だよね」「うん」「クリスマス、もうすぐだね」「どこか行くの?」「行かない、どこへも。またスキーに行っちゃうの」「うん」「そうなんだ」「うん」「おみやげ買ってきてね」「おみやげは笑顔でいいの、お父さん」「なに、それ?」「あ、うん」

 何の約束があったわけでもないのに、何もしゃべらくてもいいような関係ができてしまった。気まずい沈黙の時間が過ぎる相手と、心地よい沈黙の時間を楽しめる相手、話すことはどちらも愚につかないようなことなのに、そんな差はどこからできてしまったんだろう。ふっと思った。いくらことばを費やしたところで愛など出てこないところには出てこない。

「黙ってないで何とか言ったらどうなのよ」






■2004/11/27 Sat■  人妻(27歳)と蟹にむしゃぶりつきながら、房宿に囚らえられる [長年日記]

 ボクの年中行事となった久美浜の蟹カニツアー。今年は人妻(27歳)と二人でしっぽりと。
 蟹を囲炉裏の炭で焼きながら、下戸二人が、熱燗とっくりのくびつまんで、もういっぱいいかがなんて妙にイロっぽいね…なんて歌うてるばやいですか。はい、刺身、焼き蟹、蟹シャブと、もう蟹の顔も見たくねぇってくらい。がっつり、まだ口を開けたら、蟹が這い出してきそうなくらい、ぐふっ。やっぱ、フグよりカニだ、カニ。

 さて、ふつふつと煮える鍋をはさんで、人妻(27歳)が、「まごちゃん注1、生年月日いつ?」と唐突に聞く。あ、あのねぇ、こうして二人で久美浜くんだりまでカニを食いに来る仲なんだから、しっかりボクの誕生日くらいチェックしとけよと思いながら
「8月17日」と答えると
「生年月日と言ってるだろ(ばぁたれ)」
そしてかしゃかしゃと携帯をいじって、ほどなく
「まごちゃんはねぇ、しつしゅく。部屋の意味の「しつ」にやどの、室宿」
 そういう暦とか方位とかはボクのばあちゃんが好きで、「おまえはことしはしろくもくせだから気ぃつけな」と言うのに「同じ学年におるのはみなおんなじ運勢かい」と難癖つけて、ほとんど信じてなかった。西洋占星術は太陽の位置がによるのだが、この宿曜というのは月の位置によるという。

「室宿の人間はねぇ、《実行力と状況判断に優れた軍師の星だ。自分のことばかりに夢中で、他人を慮ることがないので、社交的なわりに親友は少ない。》注2
「うっ、あ、あたってるやんか」
 宿曜の相性があって、それを対人関係の傾向と対策として見ていくといいとか、人妻(27歳)は言う。
「ちなみにわたしはぼうしゅくで、乳房のぼうに宿な。室宿の男、ずっとさがしてたんよ。こんなとこにおったか、ふふふふ」

 人妻(27歳)のたくみなMCに、疑心暗鬼だったボクもついつい納得させられてしまう。こうして蟹の鍋をふたりっきりでつついているのも、室宿と房宿だからこそなのか。ネットで検索かけて調べてしまったよ。
 Pちゃんは女宿で、室宿と女宿は、うっ、そういうことだったのだ(;´Д`A ``` 

  • 注1:人妻(27歳)はボクのことを、「まごちゃん」とは呼ばない。
  • 注2:人妻(27歳)が言った言い回しはちょっと異っていた。覚えてられわけないので、《》部分は27宿の象意による。このサイトに互いの宿曜の相性も記されている。


■2004/11/26 Fri■  無差別攻撃 [長年日記]

 高梨豊の『都の貌』という写真集を見て過ごす。まず、見開きでA2のでかさに圧倒される。そしてそこに切り取られた写真のストイックさに押しつぶされる。浅草六区、勝鬨橋、新橋ガード下など、裏表紙に記された飯沢耕太郎のことばを引用すると
《彼もまた、ぼくと同じような怒り(と哀しみ)を抱えこんで、おそらく人類がこれまで経験してこなかったような都市の変貌に立ち合っているような気がしてくる。彼の撮影のスタイルは、感情の表出を抑えて、物や風景に静かに寄り添うものであるが、それだけに逆に怒りや哀しみは深く沈潜しているように思える。》
 「人類がこれまで経験してこなかったような」とはいささか大げさ過ぎると思えるけれど、確かに変貌は進む。そして「怒りや哀しみ」に起因するわけでもなく、単に写真を撮るものの欲望として、それを記録しておきたいと思うのは当然なのだ。以前にも書いたように、ボクも自分が写した街が、とり壊されて、いまはもうないという経験を幾度もしている。写真を撮ったから壊されてしまったのじゃないかと思えるくらいに変貌する。それはひとりの人間の「怒りや哀しみ」などで御しきれるものじゃない。10年ほど前に、ボクが生まれ育った家が壊された。その瞬間に立ち合っていたのに、1ショットさえ撮ることはなかった。撮ろうという気などはなからなかった。そんな欲望なんて湧き起こりもしなかった。
 もし感情を表に出して撮られた写真なら、これほどのインパクトはないだろう。怒りや哀しみを表に出したとき、イジイジとしたとんでもない絵になってしまうことは写真に限ったことではない。そんなことはよくわかってる。だからそんな写真なんか見たくもない。

 ページをめくっていくにつれて、それらの写真がすべて夜ということに気づく。ひたすらパリの街を写して歩いたアジェの姿に高梨豊の後ろ姿が重なる。アジェをシュールの文脈の中にとり込みたかった─それはアジェ自身によって拒否されたが─理由が少しわかった気がする。決してレトロ趣味や怒りじゃない。存在そのものをとらえているからなのだろう。そういう意味で、夜はその存在を際立たせる。その影に引かれている自分に気づく。そういえば、春樹の『海辺のカフカ』のナカタさんの影は半分の濃さでしかなかった。

 荒木経惟の『東京夏物語』 一転、荒木経惟の饒舌さに圧倒される。圧倒されっぱなしだな。こちらは車に乗って、車の中から、カメラビーム(視線)の無差別攻撃をやらかしまくったような。そういえばボク自身の視線に迷いが生じてきていたことに気づいてしまったよ。
 そんなこんなで、またシャッターを押しまくろうとしている自分がいる。






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